東京為替見通し=リスク回避相場か、G7控え自動車への関税圧力・中東リスク拡大

 昨日の海外市場でドル円は、前日の5月米消費者物価指数(CPI)に続き、5月米卸売物価指数(PPI)が予想より弱い内容だったことが分かると全般ドル売りが先行。一時143.19円まで弱含んだ。米国株相場が持ち直したことなどが相場を下支えし、143.90円付近まで下げ幅を縮める場面もあったが、中東での地政学リスクが懸念され上値も抑えられた。ユーロドルは1.1631ドルまで強含んだ。

 本日の東京時間では、ドル円の値は限られそうだ。トランプ米大統領が再び関税交渉に強気な姿勢を見せていること、15日から17日までにカナダ・アルバータ州で先進国首脳会議(G7サミット)が開催されること、そしてイスラエルがイランへ攻撃する可能性が高まっていることなどで、リスク回避の動きになりやすそうだ。

 2日間にわたって行われた米中閣僚級会談で、ジュネーブ合意履行の枠組みで一致し、米国は半年間限定となるもようだが、中国から期限限定でレアアース獲得にめどがついた。このことに気を良くしたのか、トランプ米大統領は他国への関税交渉に対して再び強気姿勢に戻っている。昨日の日本時間早朝にトランプ大統領は、貿易交渉の期限延長の用意はあるとしたものの、必要とは考えていないと述べ「2週間以内に一方的に関税率を設定する」と明言した。

 米中会談自体でどの程度進展があったかは不明確なままだが、15日から始まるG7サミットでトランプ大統領が強気な姿勢で臨むことになる。世界中での関税合戦の再開を懸念したリスク回避の動きが進みやすい。

 更に警戒しなくてはならないのは、トランプ大統領が「現在は日本と韓国と交渉中」と述べている中で、昨日は近い将来、自動車関税は引き上げられる可能性も示唆していること。この発言は、サミットで自動車の輸出大国である日韓に対しての圧力と捉えることができる。

 サミットでは先月大統領に就任したばかりの韓国の李大統領も参加する予定だ。日韓にとっては自動車産業が基幹産業の一つということで、日米韓の3カ国での話し合いも持たれるか。韓国の関税交渉を担当する呂通商交渉本部長は、日経新聞のインタビューで米国との交渉について「日本との協力」の必要性を説いている。日韓とも米国への自動車の輸出総台数が年間100万台以上ということもあり、英国のように簡単に交渉(英国生産された自動車については年間10万台までは関税を10%に引き下げ)がまとまるのは難しい。

 ここ最近では市場からも声が出ていないが、通商摩擦回避のために再びドル高修正についての話し合いが出る可能性もあることにも警戒しておきたい。なお、それぞれ2024年の日本から米国への輸出台数はトヨタ自動車が約53万台、続いてスバル約30万台、マツダが約28万台、日産自動車は約19万台、三菱約11万台となっている(本田技研は約5000台のみ)。 

 そして、新たな問題として持ち上がっているのは、イスラエルがイランへの攻撃の可能性が出てきていること。ウォールストリートジャーナル紙は、イランが6回目の交渉となる核協議で合意に達しない場合は、早ければ15日にイスラエルが攻撃を開始すると報じている。サミットだけでなく週末の中東情勢もリスクセンチメントの高まりがドル円やクロス円の重しになるだろう。

 なお、本日は本邦から4月鉱工業生産確報、設備稼働率、第三次産業活動指数などが発表されるが、週末の政治的な動向に市場の注目が集まっていることで、経済指標での反応は限定的になりそうだ。


(松井)
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