東京為替見通し=円安地合いは変わらず、市場規模拡大で介入効果も薄まる

 先週末の海外市場でドル円は、米長期金利の指標となる米10年債利回りが4.50%台まで上昇し、5月米消費者調査で消費者の期待インフレが予想を上回ったことが分かると155.90円まで強含んだ。ユーロドルは、一時1.0790ドルと日通し高値を付けたものの、米国の期待インフレの結果を受けて1.0760ドルまで弱含んだ。もっとも、NY午後には下値を切り上げた。

 本日のドル円相場は、引き続きドルの買い場探しになるか。本邦からは市場を動意づけるような主だった経済指標の発表は予定されていないことで、依然として市場の焦点は為替介入になる。

 ドル円は5月3日に4月の米雇用統計が弱い結果となり151.86円まで下落後は、先週は155.95円まで強含んだ。上げ幅としては1週間で4円となっているが、4月29日に今年最初の介入が入った時は、前営業日26日の17時頃から当日の10時半過ぎの僅か18時間弱で5円を超える円安(154.99円から160.17円まで)と比較すると、急速に円安が進んだと捉えるのは難しいかもしれない。

 4日にイエレン米財務長官が「比較的短期間にかなり大きく動いた」と発言したが、18時間弱で5円超の大幅円安と違い、先週の円安はボラタイルな動きというほどではなく、為替介入の大義名分が成り立たないのではないかとの声も出てきている。しかも、イエレン氏は介入後に「介入はまれであり、協議が行われると予想される」と、本邦当局の動きに対してけん制したとも思われる発言をし、これまで以上に積極的に介入に動きにくいだろう。また、これまで140円台からの本邦当局の口先介入の弊害で、円売りが遅れている実需勢からすると円が買われる局面があれば、円売りの機会を逃したくないことでドル円は底堅くなりそうだ。

 また、円安になりやすい要因にはほかにも複数ある。先週発表された3月の毎月勤労統計の現金給与総額は、予想を下回る僅か0.6%となり、物価変動を加味した実質賃金も過去最長の24カ月連続のマイナスだった。ファンダメンタルズの面からも円を買う地合いではない。今年の春闘の結果を受けて日銀はマイナス金利を解除したが、解除した3月に日銀が示した「賃金と物価の好循環の強まりを確認」という見解が間違っていたことになる。先月の日銀政策決定会合の主な意見が公表され、日銀が長期国債の買い入れ削減の可能性についても話し合われたようだが、仮に買い入れ額を減額しても日銀が更に大幅に利上げをできる環境下ではない。

 そして、上述のように執拗な円買い介入には、米国当局者が難色を示していることも円安要因。神田財務官は介入には限界があるということを「全く間違っている」と発言したが、理論上は保有米債を売り続ければ、まだまだ介入の限界に達することはない。しかしながら、米国にとって米債を売り、大統領選を前にインフレが焦点になり、そのインフレを引き起こす可能性もあるドル売り介入を執拗に行うことを許すことはできないだろう。

 さらに、今年の為替介入は東京市場が休場の時と、NY引け間際という極めて流動性の悪いときに行われてきた。それにもかかわらず、2日間の介入で市場では8兆円から9兆円のドル売り・円買いを行ったとされている。これまで以上に市場規模が拡大していることで、仮に介入が本日入った場合は、これまで同様のドル売りでは効果が限られる。

 なお、先週末10日に発表された商品先物取引委員会(CFTC)が発表した、円の先物ポジション状況では円ショートが大きく減少している。しかしながら、先週は終始円安に動いたことを考えると、いかに円の売り意欲が強いかを示していると言えよう。

 ドル円以外では日本時間正午にNZ準備銀行(RBNZ)が四半期毎の期待インフレを公表予定。先週は極めて狭いレンジで取引されたNZドル/ドルだが、結果次第では動意づく可能性もありそうだ。

(松井)
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